スティーブン・キング『小説作法』
- 作者: スティーヴン・キング,Stephen King,池央耿
- 出版社/メーカー: アーティストハウス
- 発売日: 2001/10/26
- メディア: 単行本
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メインとなる書き方についての内容は、「文章とは何か」「道具箱」「小説作法」の3つの章立てとなっている。
文章とは何か
もちろん、テレパシーである。
いきなりといえばいきなりの話である。しかし読み進めていけば、いわんとすることがすぐにわかる。
(中略。テーブルの上に、ウサギの入った檻の描写がある。ウサギの背中には青インクで「8」と記されている)
これらをひっくるめた情景を、今、私たちは目の前にしている。みんなが見ている。(略)読者と私は同じ部屋にいないどころか、現在時間さえ大きく隔たっている。にもかかわらず、私たちは一緒である。お互いの間に距離はない。
何事も口にすることなく、時間や空間の隔たりもこえて、同じものを見ることができる。それをテレパシーと呼んだのだ。なるほど正しい。
「道具箱」「小説作法」については、こんな内容を出し惜しみもせず公開してしまっていいの? と思うくらいに、実践的で誠実なもの。ここからエッセンスを抜き書きして標語のように壁に貼り付けたらとても役立つと思うけれど、全体がとても濃いので、まずはそのまま飲み下すようにがぶがぶとやってしまった。一読ではもったいないなぁ、これ。
特に印象に残ったのは、小説を書くことを「化石を掘り出す」作業にたとえたこと。すでに何かが埋まっているという前提で、手ごたえがあった所を、丁寧に発掘していくのだそうだ。かっちりと設計図を決めた建築のようではなく、全体像も見えない中を手作業で掘り進んでいく、というのは、とても興味深いイメージだと思った。自分の中に堆積されてきた様々なことが、いつの間にか、自分も知らない形の化石になっている。それを見つけにいく。そう考えると、インプットの重要性というのも、この「化石」のモチーフの中には含まれている。
これらを踏まえた上で、「補遺」に収録されている、書き付けたままの第1稿と、読まれることを意識して体裁を整えた第2稿の比較をするのは、楽しく刺激的だ。
キングの作品自体をほとんど読んだことのない私には、最初の「生い立ち」の章がちょっと長く感じたかな。しかし「後記」の、交通事故にあい、また書き始めるまでの流れはなかなか感動的。タビサという妻あってこそのスティーブンだ、そのことをこうもまっすぐに本に書いたというのも、またすばらしいことだ。