ジョン・アップダイク『アップダイク自選短編集』

アップダイク自選短編集 (新潮文庫)

アップダイク自選短編集 (新潮文庫)

 初アップダイク。プライベートを題材とした分野(特に結婚・離婚)がわりあい多く、通俗的な作風なのかと思いきや、描写が精密で読みごたえのある作品群でした。
 14本の短編のうち特に印象に残ったものは、情景描写では、スーパーマーケットの風景をビビッドに描いた冒頭の「A&P」や、離婚の過程をプールやスロットマシーンという特定の事物を使って照らし出した「孤児になったプール」、「ネヴァダ」。モチーフやストーリーに惹かれたのは、少年時代の体験を元に生命観についてあらわした「鳩の羽根」、美術を介して出会う女性達が浮かんでは消える「美術館と女たち」かな。他の短編も読み返すとまた新しい気づきを得られそう。
 身近な、ともすれば陳腐ともなりそうなモチーフを、精緻な眼で切り出す手腕がすばらしい。どうやら今の自分に必要な作家が見つかったかも、というのが読後の感想です。


 手元に本を少しずつ揃えていきたいと思ったのですが、身近な中規模書店にはまずほとんどないですね、アップダイク。これも絶版本です。見かけるのは、今年発刊の池澤夏樹訳『クーデタ』くらいでしょうか。「現代アメリカ文学を代表する作家」(本書の著者紹介より)じゃないのかー。今年の1月に亡くなったということもあり、勝手にすれ違いを感じます…。
 図書館で読み進めつつ、時間をかけて集めていくしかないかな。まず、この短編集は中古でいいから手元に置いておきたい。


(追記)Amazonマーケットプレイスで注文した!