アイドルが恋愛を歌うための複雑怪奇な手続き
そもそも、アイドル自身が「恋愛を禁止されながら*1恋愛を歌う」というアンビバレンツな存在です。歌詞に出てくる「あなた」にファンがひっかかりを感じず、疑似恋愛のシチュエーションを甘受できれば話は簡単なのですが、それには作詞者にある程度の手腕が必要とされます。下手な恋愛ストーリーでは、逆に不快感を引き起こすことになりかねません。
特に、ソロ歌手ではできても、グループの方ではうまくいかない、というのがよくあるケースです。理由は単純、1対1の幻想に浸るのが難しいから、というのが根底にあるからだと思いますが。
そんな背景から、ことハロプロ(つんくプロデュース)曲においては、直球の恋愛ソングより、一回りも二回りもしたような恋愛取り扱い曲の方が、面白い出来になったりする場合があります。*2
前者の、歌の主人公が恋愛をしており、相手がいて、片想いだったり夢中だったり焦ったりサヨナラを言ったり…という主観視点の曲は例示するのもめんどうなので省略。
後者のパターンは、
- 主人公は恋愛状態を希求している(が、現在その状態にない)
- 脇役として女友達や姉妹を配置し、女性のみのコミュニケーションが強調されることも。
- 主人公が将来の恋愛状態を想像している
- 他人の恋愛を批評する
- 恋愛にもちょっと触れるが、主題は別である(自己実現など)
等々。
先週発売のBerryz工房の両A面シングル『青春バスガイド/ライバル』が、両方ともこのパターンに当てはまっていて、たいへん興味深く聴きました。歌詞だけでなく曲そのものも、つんくプロデュース不況のここ数年の中ではよい出来なんじゃないかと思います。
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND79221/index.html
恋するだけならなんとかなるけど
愛するとなるとねぇ…
勇気も必要 それより相手よねぇ
「良いのいない?」
女友達(ともだち)みんな
彼とイチャイチャ
くっついたり別れたり 「軽くない?」
本当の恋愛は そんな簡単じゃ
見つからないはずよ
恋愛状態の希求パターン。「その気になれば恋愛できるけど、それなりの相手じゃないと」。"本当の恋愛"というものを信じているがために、その基準に達しないで"くっついたり別れたり"を繰り返すのは疑問であり、自分はそういうことはしない。歌詞をアイドル自身と重ね合わせて見るような聴き方ができるタイプの曲ですが、恋愛禁止をスローガンとするアイドル原理主義の方々にも、このハードルの高さは安心設計ですね。
また、主題は"弱気で後ろ向きな私"という"ライバル"を克服するという歌ですから、単なる恋愛脳でないこともポイントです。
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND79177/index.html
ひとめぼれなんだ
僕が弾けた
止まらない感覚
これが恋だろ
こちらは変化球中の変化球。性別取り替え、男子視点で恋愛を歌う。ファンからは一目で虚構の世界とわかるために、どんなに恋愛ばかり歌っていても安心して聴くことができる、という親切設計です。
また、この超法規手段により、あらゆる制約がとっぱらわれた状態になっています。"手紙書いていいだろう"、"あいつもライバル 話しかけてる"など、恋愛に対するアクションが迂遠で幼稚なことから、男子の年齢は中学生程度と想定されますが、その年代の妄想力が遺憾なく発揮されている。
"マイクに生まれ変わりたい"の、素直な欲望が狙わずして下ネタっぽくなってしまううかつさ。"時間よ 戻ってくれ 最初の日に 戻りたい"と、時間ループまでをも願うむちゃくちゃに壮大な想像力。
恋愛制約がなくなり、かつ作詞者自身の「男子中学生力」を遺憾なく発揮した結果、『青春バスガイド』は、つんくワークスの中でも異色の強度をもった曲としてあらわれたのであります。つまり、いいぞもっとやれ。
id:arittakeは、つんく兄やんの男子中学生力を応援しています。