村上春樹『1Q84』(1)

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

 BOOK 1の方を読了したところで今日はいったん中断。約550ページ。あまりネタバレのないように書こう。
 最初に驚いたのは、その格段の読みやすさ。2人の主人公の章が交互に語られ、だんだんと近づいていく、というのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と同じ構造ですが、シチュエーションや表現、場面構成などに難解さはなく(非常にていねいな手つきで取り除かれており)、物語がぐんぐんと進んでいくのに戸惑うことはありません。読者として単純に、時間を忘れて熱中しました。
 ジョージ・オーウェルの『1984年』に関連がある、という事前の各所の予想はあたりでしたね。本文の中でも直接触れられる場面があります。


 読みやすさの大きな要因としては、登場する人物やカルト団体が、私たちの知っている実在のものと容易に重ね合わせられることが大きいと思います。しかし、あまりに1対1対応しているので、どこからか反発は出てきそうですね。書く側、出す側としては、当然織り込み済みだとは思いますが。
 もう一つは、主人公自身が、「実在する1984年ではない世界にいる」ことを、劇中でわりと早くに認識していること。その認識を読者が共有することで、小説世界への入り込みがとてもスムーズになります。「あ、すごく似てるけど違う世界なんだ」と。小説では当たり前の前提ですが、とても親切な手続き方法だと思いました。
 また、「実在する1984年」の要素と、物語の中だけの地名や出来事が、非常にスムーズにつながっている。継ぎ目はとても滑らかで、指で触ってもだいじょうぶなくらい。非常に高度な技術を感じます。


 今のところ受け取っている大きなテーマは、「暴力」「子どもからの略奪」かなあ。細かいのはもっと色々あるけど、またの機会に。
 「暴力」は冒頭、とてもスマートな、広がりをもたない形で行使されます。現代的ともいえるかもしれない。それがBOOK 1の終わりにきて、もっとまざまざとグロテスクに、拡散するような形で姿を現してくる。この先のことも覚悟しておく必要があるだろうな。
 「子どもからの略奪」については、ちょっとまだ保留。BOOK 2まで読んでからまとめて考えたい。最近こんな本を読んだばかりなのは、今になってみるとタイムリーだった。あ、小説内には、性的なものだけでなく、さまざまな機会や存在の略奪が含まれます。詳細には書かないけれども。

子どもへの性的虐待 (岩波新書)

子どもへの性的虐待 (岩波新書)