「けいおん!!」#3 "いつまでも子供"

 「ドラム、やだぁぁぁ!」と叫ぶ、冒頭のりっちゃんの「ワガママ」はどこからきたのか、という話。


 もちろん最後まで見ていくと、自分の楽器に対する愛着を確認するために必要なプロセスだったということがわかるのだけど、はたして周りは、そして本人は、最初からそれをわかっていたのか?
 それについては、NOだと思います。


 今回の主旋律(りっちゃん騒動)を読み解くにあたって、面白いのが一見関係なさそうな他のメンバーのやりとりだと思うんです。副旋律と呼びましょう。2つあります。

副旋律1 亀との関係

 梓のために飼うことにした亀を見ながら、冒頭に4人のやりとりがあります。
 水槽に貼り付いてひたすら「カワイイ」と絶賛する唯。本で飼い方をしっかり勉強しなければ、という梓。家でもたくさん飼っているため慣れている紬。「怖くはないけど、カワイイと思う境地には…」とたじろぐ澪(その後、反応を見てちょっと軟化)。

副旋律2 お弁当

 クラスでお弁当を食べるシーン。唯は妹の憂お手製、紬は「量が多い」、澪は「なんかいつもカワイイ」だそうです。ここでの唯ちゃんのセリフが、私的にけっこうキーワードなんじゃないかと思ったわけです。
 「お母さんにとっては、澪ちゃんいつまでも子供なんだねぇ」


 この2つのエピソードを振り返って見た時に、「母性」みたいな言葉を使うと、りっちゃん騒動にあたってのメンバーの対応をうまく説明できるんじゃないか、と思ったりしたわけです。(この「母性」という言葉は使い所が難しいのですが…ちょっと乱暴ですけどもこのまま使います)
 つまり、亀に対する姿勢を、子供を持った時の姿勢と置き換えてみるということですね。


 憂と和のお料理上手が近くにいて「幸せ者」だという唯は、周囲に与えられるままに、他の者にも与える。亀は猫かわいがり。律にはギターを真っ先に貸し、スランプだと思えば真っ正直に解決策をいくつも提案する。
 亀の飼い方を冷静に勉強する梓は、律に手際よくギターの弾き方を指南する。
 家にいる亀も、お弁当の量も、楽器の音色も、とにかく「量が多い」のがポイントの紬。
 そして、お弁当のセリフで表されるように、まだ子供の部分をいくらか形のまま残しているのが澪なのだと思います(これは特に悪い意味ではありません)。だから律に楽器を貸せない。
 でも結果的には、澪が熱意を表明することで全体をいい方向へ導きます。大人になりきらないからこその輝きですね。


 では、りっちゃんの「ワガママ」は何が発端だったのか?
 赤ちゃんを寝かせようとしてもなかなか寝付かず泣くばかり、そんな時イライラするお母さんに、こう説明することがあるそうです。
 「赤ちゃんも眠いんだけど、眠り方がうまくわからなくて泣いているのよ」


 そういう風に、自分でもうまく表現できない気持ちがある時に、行動の方が先に出ることがあります。
 赤ちゃんならいくらでも。大人でも、後から結果的に「こういう気持ちだったんだ」と気付くことが、時にはあるでしょう。
 ですから、高校生にも、同じようなことがそれなりの頻度で訪れるものだと思います。行動を続けていくことで、自分の気持ちが収束していくようなことが。


 それにしても、この回でやはり面白いのは、律と澪の関係です。澪が楽器を貸せないのは、子供メソッドで手探り行動している律に対して、対等の子供の気持ちになっているからです。
 反面、子供メソッドでガンガン突き進んできた律が、ふっと大人の目線になるのが、澪に対してなのですね。というか、突き進んでいる間も、澪の楽器には手を出そうとしなかった。子供っぽくふるまっているようで、一部冷静なままでいるのが、律というキャラクターの奥深さですね。


 唯のギターで挫折したので結果的には手を出しませんでしたが、もし挫折しなかったら、律が梓の楽器に触れることがあっただろうか? と想像してみます。
 答えはたぶん、NOだと思います。後輩の梓は先輩の頼みを断れないかもしれない。冷静な判断を常に残している律は、そういう力関係で侵食するようなことを、おそらくしないでしょう。