繁田信一『殴り合う貴族たち』

殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)

殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)

 藤原実資(さねすけ)という人物の「小右記」という日記をベースに、平安王朝貴族の暴力沙汰について、13章にわたりまとめた本。悪そうな奴が大体友達すぎる。文化史の一面として、それなりに興味深く読みました。ゴシップ的な面白さもあると思いますが、歴史の性質上、暴力の背景が推測で終わってしまうものも多数あり、スッキリ度は低め。
 ちなみに、フルボッコにするのを「打ち調ず」、あるいは「打ち凌ず」とあらわすらしいです。雅やかなのかなんなのか。

 テーマで分けられた章に複数のエピソードが配置されているのですが、ちょっと構成で損をしているかも? テーマ内の関連度もちょっと微妙だし、時系列が飛び飛びになるので、「ところでこの人物、前章で出てきた誰々の父であり…」みたいな展開が多い。人物の関連については早い段階で理解を諦めましたw でもあの時代は系図が複雑だから、時系列にしても同じかな。


 たとえば面白いと思ったのは、「身分の高い人の家がある通りでは、その門の前を牛車に乗ったまま通過してはならない」という習わし(その地帯だけ下りて歩く)。守らない場合、家の従者から投石を受けるとか。従者のあらくれ度によっては、屋敷に引き込まれて脅されたりもするようです。
 で、慣れない東国の人が馬に乗ったまま通り、やはり投石を受ける。「牛車でダメ」=「馬でもダメ」だとわかれよ、ということらしい。暗黙知な上に、その応用まで求められるとな。
 KYだのなんだの、「空気を読む」ことに悩みを持つ人も多い現代ですが、平安の世はさらにどんだけ空気を読む必要があるのか。読んでる方が息苦しくなりますw


 殴り合いだけでなく、拉致、監禁、強姦、家宅襲撃、建物の破壊、殺人に至るまで、現代で思いつくような暴力はおおよそカバーされている感。真ん中あたりから、早く読み終わりたい気持ちでだいぶ飛ばしましたw そう具体的な描写があるわけでないので、グロ注意的な要素は少ないのですが、最初に述べたような散漫さもあり、なんか前半でおなかいっぱいになってしまって…。
 暴力エピソード雨あられの中、とりわけ印象に残ったのは7〜8章、花山法皇のクレイジーさかなw 天皇即位の時の逸話とか女性関係とか。あ、暴力関係ないか。法皇の皇女の末路がかわいそうです><