サッカーのこと、前より好きになった

 2010年6月25日、日本、テレビの中はもちろんお祭り騒ぎ、街行く人々もどこか足軽く見えます。サッカー日本代表が、デンマーク戦での鮮やかな勝利、国外ワールドカップで初の決勝リーグ進出を手にした日。私も旦那さんといっしょに目覚ましをかけて、朝3時半から観戦していました。
 今日も決まった時はにこにこするような幸せな瞬間だったけど、興奮した度合いでいったら、初戦の白星の方が上だったかもなあ。


 私は、どっちかというとのんびり野球を眺める方が好きでした。サッカーは、ワールドカップや五輪の時で、かつ時間帯がよければリアルタイムで見ることもあるけれど、それ以外はニュースで結果を確認するくらい。日韓共催の時でも、そこまで熱中していませんでした。
 今回だって、事前の国際試合の報道を聞いては、「ああ、やっぱり私はサッカーにはのめりこめないかも…」と思っていたんです。結果もそうだけど、チームに、監督に、集まる非難非難。呆れ顔のコメンテーター、サッカーファンという芸能人は集って海外チームの美技をほめそやす。ファンでない私にとって、日本サッカーそのもの以上に、それを取り巻く状況が、気持ちのいいものとは感じられませんでした。

カメルーン

 そんなこんなでちょっと後ろのめりに見始めた23時キックオフの第1戦、対カメルーン。入場の列を見て、「やっぱり筋肉の付き方からして違うんだわ」と、比べるような目で見てしまったり。試合が始まっても、初戦の固さなのか、互いにどこか攻め手に欠けるような散漫さを感じていました。
 前半が終わる頃、本田のゴール。自分の中でびりびりとスイッチが入りました。「点が入った」。
 これまでずっと言われてきた「決定力不足」という日本のコンプレックス。熱心なファンでない私の中にも、それは十分にこびりついた言葉でした。だけど、点が入った。今日の試合はちょっと違うのかもしれない…。
 後半は、祈るような気持ちで時間が過ぎるのを待ちました。少ないチャンス、縦にぽーんと跳ぶボールの応酬、そして試合終了。パスでつなぐきれいなサッカーではなかったかもしれないけれど、格上の相手にとにかく勝てた。後半のハラハラと勝利の興奮とが相まって、その日は全然寝付けませんでした。


 その日から、「サッカーを見たい」という前向きな気持ちが出てきたのです。日本戦に限らず。
 そして、あまりに勝利の余韻が強すぎて、翌日に私は旦那さんにこんな懸念を話します。

  • オランダ戦は捨てるということでサブメンバーを起用するが、大差で負ける。デンマーク戦では悪くない成績を残すものの、得失点差に泣いて敗退。
  • 逆に、オランダ戦にも全力で臨む。優勝候補を相手に必死の戦いで善戦。しかし力を出し尽くした日本は、次のデンマーク戦で嘘のようにボロ負けする(スラムダンクの山王戦を終えた湘北のように)。

 こんな不安なイメージで落胆を避けようとするほど、1度の勝利は、私に期待を持たせてしまっていたということです。

オランダ戦

 週末のゴールデンタイムに開始。第1戦と同じ布陣で、「捨て」ではないチームの姿勢。得点はならなかったものの、強豪相手に0-1という、胸を張れる試合をしてくれました。
 スナイデルのシュート、あれはしょうがないよねえ。川島は悔しがっていたけど、むしろそれだけに抑えられたんだから大したもんだよ。DF陣もヘッドで果敢にゴール前を守り、MF、FWも労を惜しまず自陣から敵陣まで走り続けました。
 こういう統制のとれたサッカーで世界相手に善戦できるということ。出し尽くした虚脱感ではなく、充実感をたたえたメンバーの表情は、カメルーン戦後の私の不安を払拭してくれました。

デンマーク戦

 そして迎えた運命のデンマーク戦。第1戦までの半信半疑は完全に消え、本当にワクワクした気持ちで試合を見守っていました。勝てるかもしれない、勝ってほしい…。
 そして早起きの頭をガツンと醒ました本田のFK。「ほんとに!?」と続けて驚かせてくれた遠藤のFK。漫画みたいに痛快な展開でした。でも流れの中で得点していないのがちょっと気になる。
 後半、PKを一度は止めたものの、こぼれた球をトマソンに押し込まれ1点を失う。1点差になってしまいちょっとドキドキ。それでも、試合ごとに固くなるように思える日本の守備は引き続き有効でした。そして終盤、本田から岡崎につないでだめ押しの3点目。FKだけじゃない、こういうゴールが成功したという実績は、次への期待も高めてくれます。


 試合後に本田が「事前に思っていたほど喜べない」と言っていたけど、きっと「まだこれが結果じゃない、次も十分戦える」という気持ちなのでしょうね。
 私も満足感はあったけれど、第1戦ほどの刺激的な感覚ではありませんでした。それは不安の上にようやく立脚した勝利ではない、確かな手ごたえのある勝利だったからだと思います。ファンでなかった私が、3戦を通じて、チームを信頼し、よそ者感覚ではなく中に入り込むような気持ちで観戦できるようになりました。


 次のパラグアイ戦で勝っても負けても、こうやってサッカーを楽しめるようになった自分の変化は忘れずにいられると思います。
 まだまだ楽しみは続くけれど、ひとまずここで、こういう気持ちを持たせてくれた岡田監督、選手たちに敬意と拍手を! ありがとう!